Player Impact(PI)とは何か — チーム内影響力の測り方
TL;DR
Player Impact(PI)は、選手の出場有無でチーム結果がどれだけ変わるかを測る指標だ。個人能力ではなく、チーム成績への影響力を −100〜+100 で表す。
指標の基本定義
Player Impact(PI)は、JPick が独自に算出するチーム内影響力の指標である。値域は −100〜+100。プラスが大きいほど、その選手の出場時にチームが好成績を残していることを意味する。
PI が測るのは「個人の上手さ」ではない。あくまで「チームの結果がその選手の出場 / 不在でどれだけ変わるか」だけを見ている。チーム成績に強く影響する選手は、能力が高い選手と一致するとは限らない。戦術上の役割やチームメイトとの相性によって、目立たない選手の PI が高く出ることもある。
似た発想は他競技にも存在する。バスケットボールのプラスマイナス(plus-minus)は「ある選手がコートにいる間のチームの得失点差」を測る指標であり、PI はそれを 1 試合単位のサッカーに翻訳したものに近い。
算出ロジック(考え方)
PI の中核は「その選手が先発した試合(On 試合)と、先発しなかった試合(Off 試合)で、チームの成績がどれだけ違うか」を比較する発想だ。サッカー版の応用例は American Soccer Analysis が紹介する WOWY(With Or Without You)としても知られている。
JPick が比較に使う主な材料は二つある。
- PPG(1 試合あたりの勝ち点)の差 — 出場時と不在時のチーム平均勝ち点の差。これが PI の主軸となる。
- xGD(xG 差)の差 — 出場時と不在時のチームの内容面(ゴール期待値の差)の差。影響力評価の補助情報として組み合わせる。
二つを組み合わせる際の重み付けは、過去シーズンのデータで翌シーズンの結果をどれだけ予測できるかを検証して決定した。勝ち点差を主軸とし、xGD 差を補助的に組み込む配分を採用している。
少サンプルの罠を避けるため、On / Off の試合数が少ない場合は値を中央(ゼロ)寄りに引き戻す処理を加えている。1〜2 試合分のデータから「PI = +80」のような極端な値を出すと、ノイズに引きずられた誤った結論を招く。これは Tom Tango が野球の Marcel 予測で導入した regression to the mean(平均回帰)と同じ発想であり、サンプル数が少ない値ほどゼロに引き戻すことで統計的なノイズを抑える標準的な手法である。サンプルが増えるほど元の差がそのまま反映され、サンプルが少ないほどゼロに近づく。
最終的な値は ±100 スケールに収められる。シーズン全試合に先発し続けて Off 試合が存在しない選手については、別途試合採点(rating)の平均から推定値を割り当てる。
JPick はあわせて**信頼度(confidence)**を High / Medium / Low の三段階で記録している。On / Off の試合数の少ない方が一定数を超えると High、少なすぎる場合は Low となる。Low の値は参考程度にとどめるべきだ。
データソース
JPick は API-Football 経由で取得した試合結果・スタメン情報・xG データを利用して PI を算出する。シーズンを跨いで前年と当年の試合データを材料にし、日次バッチで更新する。
API コールは不要で、データベース内の集計だけで計算する。試合の Final Time(試合終了)情報が確定した翌日以降に値が反映される。
読み方の例
具体的な数値で見る方が直感的に理解できる。以下はいずれも仮設例である。
ケース A: PI = +40、信頼度 High そのチームは、この選手が先発した試合で勝ち点を大きく稼ぎ、不在時には伸びていない。チームの当該選手への依存度が高い、あるいは戦術の中核を担っていることを示している。
ケース B: PI = ±5、信頼度 High 出場の有無でチーム結果がほぼ変わらない。代替可能なローテーション選手か、影響が他の指標で表れにくい選手だ。
ケース C: PI = −20、信頼度 Low 不在時の方がチーム成績が良い状態だ。しかしサンプルが少なく、短期間の偏りに過ぎない。シーズン後半に試合数が積み上がると値は大きく変動する。
ケース D: PI = +30、フォールバック値 シーズン全試合フル出場の選手。Off 試合が存在しないため、On / Off 比較ができない。代わりに試合採点(rating)の平均からチーム影響度を推定している。値は他選手と直接比較しないこと。
解釈において時間軸は重要である。シーズン序盤の数試合で出した PI には、勝ち負けが偶然に揃っただけの変動が含まれる。10 試合以上を超えてくると、On / Off 双方のサンプルが増え、値の信頼性も上がる。
限界と注意点
PI はチーム内影響力を測る有用な指標だが、データから読み取れない要素も多い。
個人能力の指標ではない。 PI が高い選手が、必ずしも個人として優れているわけではない。逆も真である。守備的なボランチや戦術的な役割を持つ選手は、得点・アシストでは目立たないが PI が高く出ることがある。「実力」という言葉と PI を結びつけて読むのは誤りだ。
共起効果は補正されない。 ある選手が出場した試合で、たまたま強敵と当たっていなかったり、ホームでの連戦が重なっていた場合など、PI はそのスケジュールの偏りを補正できない。バスケで使われる Adjusted Plus-Minus(APM)は他選手の影響を統計的に分離するが、JPick の PI はその段階までは踏み込んでいない。
戦術コンテキストは反映されない。 相手のレベル、ホーム / アウェイ、フォーメーション、試合中の交代タイミングは、いずれも PI には織り込まれない。
怪我と監督判断が混在する。 Off 試合が「怪我による欠場」なのか「監督による起用変動」なのかは区別されない。長期離脱の選手と、ターンオーバー対象の選手は同じ「Off」として扱われる。
サンプル不足の値は参考程度。 信頼度 Low の値は、シーズン序盤や出場機会が限定的な選手で頻繁に発生する。データの数が増えるまで結論は保留すべきだ。
関連指標との違い
PI を理解するには、隣接する指標との関係を整理しておくと役に立つ。
Rating(試合採点) は 1 試合内での個人パフォーマンスを評価する。PI が「チーム結果差」を見るのに対し、Rating は「個人の働き」を見る。両方を併読することで「個人として目立つが、チーム結果に影響しない選手」のような立ち位置が見えてくる。
xG(ゴール期待値) はシュート機会の質を表す指標で、PI の算出材料の一部として組み込まれている。xG 単独はチームレベルの攻撃効率を表すが、PI は選手単位のチーム影響度に変換した形だ。
JPick Edge は別の独自指標で、今季のブレイク可能性を評価する。PI が「過去の影響力」を見るのに対し、Edge は「これからの伸び代」を見る指向の違いがある。
JPick での活用
PI は JPick の各画面で次のように使われている。
スタメン発表時のインサイト。 試合直前にスタメンが発表された際、コアプレイヤーが先発から外れていれば PI ベースで影響度を推定し、自動的に注意喚起のインサイトを生成する。
Lineup Strength(スタメン戦力値)。 スタメン 11 人の PI 平均値をチーム単位で算出し、直近 5 試合平均および前節比と比較表示する。チームとしてのスタメン編成の変動を追える。
選手詳細ページ。 各選手の PI スコアバーを表示し、その選手のチーム内影響度をひと目で把握できるようにしている。
PI を「ひとつの数字」として見るのではなく、信頼度・サンプル数・直近の試合状況と組み合わせて読むことで、「順位表だけでは見えないチームの実情」が立体的に浮かび上がる。それが JPick Lab の分析スタンスである。
References
- American Soccer Analysis. "With or Without You (WOWY): A Plus-Minus Alternative for Soccer." https://www.americansocceranalysis.com/home/2019/8/14/with-or-without-you-wowy-a-plus-minus-alternative-for-soccer (Accessed: 2026-04-25)
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- The Hardball Times (FanGraphs). "But I Regress…" https://tht.fangraphs.com/but-i-regress/ (Accessed: 2026-04-25)
- FanGraphs Library. "The Projection Rundown: The Basics on Marcels, ZiPS, CAIRO, Oliver, and the Rest." https://library.fangraphs.com/the-projection-rundown-the-basics-on-marcels-zips-cairo-oliver-and-the-rest/ (Accessed: 2026-04-25)
- API-Football. "API-Football Documentation (v3)." https://www.api-football.com/documentation-v3 (Accessed: 2026-04-25)